研究紹介

光と音のテクノロジー

光や音はテーマパークのパレードやショータイム、結婚式の演出に欠かせませんが、大学での研究にも盛んに利用されています。例えば以下に示すような極限的性質が、将来、私たちの生活でもっと重要な役割を果たすことになりそうです。

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超高速: 肉眼では100ミリ秒 (1ミリ秒=10のマイナス3乗秒)のうちに起こる現象を見るのも大変かもしれません。ましてや1フェムト秒 (=10のマイナス15乗秒)のうちに起こる現象を見ることは不可能です。ところが、レーザー光を使えば1フェムト秒はおろかアト秒(=10のマイナス18乗秒)の時間スケールで起こる特殊な現象を捉えることが可能になります。

「応用物理工学コース」では、非常に短い時間の光パルスを作って、様々な物理現象の探索を行っています。例えば、カメラで超高速な運動のスナップショットを撮ることができるように、光パルスを使って分子の動きや原子の周りを回る電子の動きを観察できています。また光パルスはあまりにも高速なので、熱を発生せずに物質を加工したり、制御できたりします。光パルスの世界では、室温超伝導も夢ではないかもしれません。

高周波数: 人間の耳は 20,000 サイクル/秒 (Hz)の音まで聞くことができます。コウモリは 100,000 Hzの音まで聞くことができます。私たちは、1,000,000,000,000 Hz! (1012 Hz) の音波を使って、ICのようなミクロン(0.000001 m)からナノメートル(0.000000001 m)サイズの構造を観察するのに使っています。これら微小なICは、電子機器や携帯電話などに幅広く使われています。

「応用物理工学コース」では、音波を使って結晶上を進むさざ波を観察することに成功しました。結晶上のさざ波は水面の波と似ていますが、ずっと小さい波です。また音の通り方を制御するマイクロデバイスや周期構造の設計も行っています。

遥か遠方とミクロの世界: 宇宙の遥か彼方にある新しい惑星を探しています。そのために、遠方から来た光から恒星の光を除く技術の研究を行なっています。同じ技術が、物質のミクロな性質を探索したり、眼科検診などの医療にも応用されています。

量子の世界へ: 光を物質に照射すると、一定の振動数以上で電子が放出され始める光電効果が観測できます。これは光が単なる波ではなく、光子として量子化されることを示しています。

「応用物理工学コース」では、このような量子としての光や、光よりもっと扱いやすい中性子を使って、量子力学の基本法則を証明したり、修正することに取り組んでいます。また物質中の電子との相互作用を使った応用研究も進めています。

関連研究室:量子機能工学研究室光量子物理学研究室極限量子光学研究室フォト二クス研究室固体物理学研究室光物性工学研究室

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レーザーの光
結晶上のさざ波
物質波による干渉
フォノンの波紋
偏光による可視化
太陽系外惑星探査

トポロジーの科学と技術

「ドーナッツとコーヒーカップは同類だ!」と言ったら、不思議に思うでしょう?でも「トポロジー」と呼ばれる分野では、これらを「同類」と見なすのです。その理由は、どちらも「穴」が一つだけあるということです。最近、トポロジーという考え方が物質の性質を理解する上でとても重要であることが解ってきました。

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トポロジーは数学の一分野として発展してきましたが、現在ではアインシュタインの一般相対性理論をはじめ、物理学の様々な最先端分野に利用されるようになっています。最近では、2016年のノーベル物理学賞が、「トポロジカル相転移と物質におけるトポロジカル相」に関する研究を行った三氏に与えられたことで話題になりました。

私たちの「応用物理工学コース」では、このトポロジーを、物質の性質や社会現象・生命現象等の複雑な現象を理解する研究に応用しています。その例を3つ紹介しましょう。

結晶の形状と性質:「メビウスの帯」を知っている人もいるかもしれません。これは紙の帯を180度捻ってつなぎ合わせるとできるのですが、裏と表の区別が無くなってしまうのが面白いところです。このような形状を人工的に作るのは簡単ですが、自然にできるということはちょっと想像しにくいかもしれませんね。

しかし、このような形状の結晶が存在することを、「応用物理工学コース」は世界に先駆けて発見しました。現在、この面白い形状の結晶が持つ性質を、精力的に研究しています。

トポロジカル相:物質をその伝導特性から分類すると金属と絶縁体と半導体に分けることができます。現在の科学技術はこれら3つの物質相を絶妙に使い分けることで成り立っています。ところが、物質内部の状態をトポロジーという視点で捉え直すことにより、これら3つとは全く異なる物質相が存在することが最近の研究によって解ってきました。「応用物理工学コース」では、自然界に存在する様々な物質や人工量子系におけるトポロジカル相の研究を行っています。

光と音の渦:台所のシンクに溜まった水が排水溝から流れ出る時、渦ができることは知っていますね。では光や音が流れる時に、このようなことは起こるのでしょうか?渦の中心は、数学的に言えば「特異点」という特殊な点として考えることができます。実はこの特異点は、光と音の場合にも、水の場合と同様に存在します。 「応用物理工学コース」では、光と音の渦を自在に操って未知の物理現象を探索しています。

関連研究室:数理物理工学研究室トポロジー工学研究室ソフトマター工学研究室光量子物理学研究室光物性工学研究室

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ドーナッツとコーヒーカップは同類
トポロジカル結晶
液晶のトポロジー的欠陥
石鹸水中のジャイロイド構造
位相特異点を持つ光波(光渦)
波数空間における有効磁場

ネットワークと複雑系の力学

複雑系やネットワークは私たちのまわりにあふれています。皆さんが、今朝、交通渋滞に巻き込まれてきたなら、すでにその一例を目撃していたことになります。人間関係、細胞内の化学反応、株価の変動、あなたの脳の中のニューラルネット(神経回路網)、不規則な物質の構造もまた、その一例です。

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これらの全てに共通することは、比較的単純な要素がとても複雑に関係し合っていて、その全体の振舞いが一つ一つの要素の性質からは簡単には予想できないということです。

例えば、私たちの体は多くの細胞からできていますが、組織の働きや私たち自身の行動を細胞の性質から理解することは容易ではありません。とは言え、複雑な系も秩序をもって機能しているわけですから、そこには何等かの法則性があるに違いありません。

私たちの「応用物理工学コース」では、神経回路網や複雑ネットワーク、不規則構造物質などの複雑系を支配する法則とは何なのかを理解し、それらをどの様に応用するか研究しています。

ニューラルネット:人間の脳細胞をシリコン上に一つ一つ成長させることで、基本的な思考プロセスをモデル化することができます。この生体器官と無機物との驚くべき組み合わせは、全く新しいハイブリッドデバイスへの可能性を拓きます。

フラクタル:「フラクタル」とは部分を拡大すると全体と同じような構造になるような性質をもった図形のことです。自然界に見られる例のひとつとして海岸線の形状がよく例に挙げられますが、海岸線だけでなくフラクタル構造をもつ系は原子・分子の世界から宇宙の構造に至るまで、ありとあらゆるスケールで見ることができます。そのような性質をもつ系で起こる現象にはどのような特徴があるのでしょうか。

ネットワーク:人間関係に代表される社会構造や細胞内の化学反応がとても複雑なのは言うまでもありませんが、実はそのような系は点(ノード)と線(エッジ)からなる複雑なネットワークによって表すことができます。海岸線のように直接目で見ることができる複雑構造と、視覚で捉えることができないネットワークの複雑さには、どのような類似点や相違点があるか研究しています。

関連研究室:数理物理工学研究室トポロジー工学研究室結晶物理工学研究室

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液状ヨーグルトのフラクタル性
蛋白質相互作用ネットワークの構造
準結晶構造のモデル
ニューラル・ネットワーク
複雑な臨界構造
フラクタルな電子波動関数

新しい結晶や物質の創製

思い通りに物質を操ったり、新しい物質を作ってみたいと思ったことはありますか?

スノーボードは常に進化している新材料が使われていることをご存知でしょうか?

物質の創製というのは原子を使った料理のようなものです、もちろん食べることはできません。私たちの「応用物理工学コース」では、手に取れるくらいのものから分子サイズまで、あるいは固い物質から軟らかい物質まで、さまざまな新物質の設計や作製および評価を含む研究を精力的におこなっています。

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準結晶:結晶の特徴のひとつに周期性がありますが、準結晶は一風変わった周期性を持つ物質です。例えば二種類の菱形を組み合わせたペンローズタイルを考えてもらえば良いでしょう。

このような新しい秩序構造をもつ物質は現在も発見され続けていますし、これらの物質では通常とは異なる新しい物性の発現が期待されています。

カーボンナノチューブ:炭素でできたナノメーターサイズのチューブ構造ですが、最も強い構造をしており、同時に金属に見られる伝導性や、時には半導体的な性質も発現します。

シミュレーションを駆使すると、1次元的なナノチューブ上で電子がどのように特徴的な伝播を見せるか調べることができます。

ソフトマター:液晶,高分子,生体物質など柔らかい物質はソフトマターと呼ばれます。ソフトマターは、力や電場、磁場と言った外場を使って容易に状態を変化させることができるので、非平衡統計物理学の理解を深める格好のターゲットであると同時に新しい機能を持つデバイスへの応用を進めています。

バイオテクノロジー:柔らかい物質の代表例は生体物質ですが、生命活動を知るには生きたままの細胞を調べる必要があります。「応用理工学コース」では、細胞の活動に対する水の構造化の影響を調べています。

原子分解能イメージング:物質の評価という意味で、高い分解能でイメージングを行う必要があります。「応用理工学コース」では、広範な分野の材料に対して、低ダメージで3次元原子分解能をもつイメージング技術を開発しています。結晶だけでなく、例えば単一DNAを3次元でイメージングすることに挑戦しています。

関連研究室:数理物理工学研究室物性物理工学研究室トポロジー工学研究室結晶物理工学研究室ナノバイオ工学研究室ソフトマター工学研究室

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カーボンファイバで作られたテニスラケット
準結晶
カーボンナノチューブ
ソフトマター
バイオテクノロジー
燃える氷:メタンハイドレート

ナノスケール 半導体デバイス(素子)

私たちの身の回りには多くの半導体が存在します。 半導体なしではどんな電子部品も存在できないからです。

半導体の中では電子の通り道に“信号機”を置いて、電子を止めたり、通したり自由にコントロールできます。それで、半導体をつかってメモリーとかスイッチを作ることができるわけです。半導体中の電子は光に変換することも可能です。ファイバ通信で使われるのは、半導体を使ったレーザーです。もっと身近なところでは、照明に使われるLEDも半導体です。

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「応用物理工学コース」では、こんな半導体デバイスを原子のサイズまで小さくして、薄膜や点(ドット)、線(ワイヤー)にしてしまおうとしています。

半導体をナノスケールで加工すると、大きな半導体とはぜんぜん違う性質を持つようになって、電子は様々な面白い性質を示すようになります。例えば電子の運動を高速にコントロールしたり、壁を通り抜けたり、ひとつの大きな原子のように振る舞ったりします。

私たちの「応用物理工学コース」では、この半導体を次世代のコンピューターや光電子デバイスへと応用する研究を行っています。

量子コンピューター: 量子力学という小さな世界を研究する学問によれば、常識では想像できないような奇妙な装置ができます。例えば、量子コンピューターは今使われているコンピューターに比べて桁違いに速くなります。

量子暗号:私たちの身の回りの通信機器は、電子が有るか無いかで情報を伝えます。そのため、通信する途中で情報を抜き取ることが可能です。ところが量子力学の世界では、電子の有る無しは確率で支配されるうえ、情報を抜き取ろうとするとたちまち確率的でなくなってしまうので、セキュリティが格段に向上すると考えられています。

スピントロニクス:電子が動くと電流になりますが、量子力学の世界では電子自体に回転運動が備わっており、スピンと呼ばれます。磁石のように働くスピンは、すでにメモリデバイスとして応用されていますが、半導体にさまざまな工夫を凝らすことにより、スピンをより積極的かつ高速に動かしたり、あるいは量子力学的な特徴を活かせるデバイス開発を進めています。

関連研究室:物性物理工学研究室トポロジー工学研究室極限量子光学研究室半導体量子工学研究室光物性工学研究室

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半導体は電子の信号機
量子力学の世界
ナノ結晶の華(ZnO)
半導体メモリ
分子で作られたトランジスタ
電子スピンの分布